地域活動で参加者同士が自然と支え合う場を作るには:仕掛けと工夫事例
はじめに:なぜ参加者同士の支え合いが大切なのでしょうか
地域でのメンタルヘルス支援活動や居場所づくりに取り組む中で、参加者の方々が主体的に関わり、お互いを支え合うようになることは、活動を長く続けていく上で非常に重要な要素となります。運営側の負担を減らすだけでなく、参加者自身が「誰かの役に立っている」と感じることで、自身のwell-being(心身ともに健やかな状態)にも繋がる可能性があるからです。
しかし、「どうすれば参加者同士が自然と支え合うようになるのだろうか」と悩むこともあるかもしれません。専門知識がなくても、地域活動の現場でできる具体的な「仕掛け」や「工夫」はたくさんあります。ここでは、参加者同士の温かい交流と支え合いが生まれている活動事例をもとに、そのヒントをご紹介します。
参加者同士の支え合いが生まれる場の特徴
参加者同士が自然と心を通わせ、助け合えるような場には、いくつかの共通する特徴が見られます。
- 安心感がある: 自分の気持ちや考えを安心して話せる雰囲気があり、否定される心配がないと感じられること。
- 共通の話題や目的がある: 同じ地域に住んでいる、同じような関心事がある、同じ活動に参加している、といった共通点があること。
- 小さな役割や貢献の機会がある: 大げさなことでなくとも、「ありがとう」と言われるような、ささやかな形で貢献できる機会があること。
- 運営者との信頼関係がある: 運営側が参加者の気持ちに寄り添い、丁寧に関わっていることで、参加者も安心して他の参加者と関われること。
これらの特徴を持つ場を作るために、私たちはどのような工夫ができるでしょうか。
参加者同士の支え合いを促す具体的な仕掛けと工夫事例
地域活動の現場で実践できる、具体的な「仕掛け」や「工夫」の例をいくつかご紹介します。これらは専門的なスキルがなくても、少し意識を変えるだけで取り入れられるものばかりです。
事例1:小さな「お願い」から始める役割分担
ある地域の交流サロンでは、毎回参加者の中にお茶出しやテーブルの片付けを「お手伝いいただけませんか」とお願いすることから始めました。最初はお声がけした方だけでしたが、次第に他の参加者も自然と手伝ってくれるようになったそうです。
工夫のポイント: * 大げさな仕事ではなく、誰もができる簡単な役割からお願いする。 * お願いする際は、「〇〇さん、少し手伝ってもらえませんか?」と具体的に、個人に丁寧に声をかける。 * 手伝ってくれたら、「〇〇さんのおかげで助かります、ありがとうございます」と具体的に感謝を伝える。 * 毎回決まった人ではなく、様々な人にお声がけする機会を作る。
効果: 「少しだけ役に立てた」という経験は、参加者の自己肯定感を高めます。また、一緒に作業することで自然と会話が生まれ、参加者同士の交流のきっかけにもなります。運営側の負担も軽減されます。
事例2:得意なことを持ち寄る「〇〇先生」企画
別の地域団体では、参加者の中に手芸が得意な方がいると聞き、皆で簡単な小物を作る会を企画しました。その得意な方に「〇〇先生」として皆に教える役割をお願いしたところ、参加者だけでなく教える側の方も生きがいを感じ、会が大変盛り上がったそうです。
工夫のポイント: * 参加者の趣味や特技、経験などを普段の会話の中で把握しておく。 * 大勢の前で話すのが苦手な方には、少人数のグループで、または一対一で教える機会を作るなど、負担の少ない形を提案する。 * 教えるテーマは、特別な技術がなくても楽しめる簡単なものから始める。 * 企画の準備段階から、得意な方と一緒に考える時間を設ける。
効果: 参加者が自身の能力を発揮する機会が生まれ、自信を持つことに繋がります。他の参加者は新しいことを学ぶ楽しみを得られ、教える人と教わる人の間に自然な繋がりが生まれます。
事例3:意図的に「雑談」の時間を作る
ある居場所では、プログラムの合間や終了後に、あえて「〇〇さんが育てた野菜の話を聞かせてください」「最近見て面白かったテレビ番組はありますか?」など、テーマを設けた雑談タイムを設けました。
工夫のポイント: * 自由な雑談だけでなく、運営側が共通の話題を提供したり、話を振ったりする。 * 話しやすいように、少人数のグループに分かれるなどの工夫をする。 * 他の人の話を丁寧に聞くことの大切さを伝え、安心できる雰囲気を作る。 * 無理に話さなくても良い、聞いているだけでも大丈夫、という姿勢を示す。
効果: フォーマルな活動時間とは異なり、リラックスした雰囲気の中で参加者同士の個人的な交流が深まります。共通の話題が見つかることで、次の交流にも繋がりやすくなります。
事例4:お互いの「困り事」を共有できる仕組み
地域の見守り活動を行う団体では、週に一度集まる場で、「最近ちょっと困っていること」や「誰かに聞いてほしいこと」を自由に話せる時間を設けました。専門的な相談ではなく、「テレビのリモコンの使い方が分からなくて」「この地域の美味しいお店を知りたい」といった些細な困り事でも良いことにしました。
工夫のポイント: * 話したくない人は聞いているだけでも良い、というルールを明確にする。 * 話の内容を秘密にすること(守秘義務)を運営側が徹底し、参加者にも協力を呼びかける。 * すぐに解決策を出すのではなく、まずは丁寧に「聞く」ことに重点を置く。 * 専門的な相談が必要な場合は、適切な相談窓口を紹介する。
効果: 「困っているのは自分だけではない」と感じられ、孤立感が和らぎます。誰かの困り事に対して「それなら私知ってるよ」「私にもそんな時あったよ」と声をかける機会が生まれ、お互いを気遣う気持ちや、小さな助け合いが生まれます。
活動を継続・発展させるためのヒント
参加者同士の支え合いが生まれる場は、一度作ったら終わりではありません。継続していくためには、いくつかの視点が大切です。
- 無理のない運営: 運営メンバーだけで全てを抱え込まず、参加者にお願いできること、地域資源として活用できることは何か、常に考えてみましょう。
- 成功体験の共有: 小さなことでも良いので、「〇〇さんと〇〇さんが、お茶を一緒に片付けてくれたのが嬉しかったね」「〇〇さんが話してくれたおかげで、みんなが笑顔になったね」など、良かったことを活動メンバーや参加者同士で共有する機会を持ちましょう。
- 変化への対応: 参加者の顔ぶれやニーズは変化します。常に耳を傾け、活動の形を少しずつ調整していく柔軟性も必要です。
資金や行政との連携に不安がある場合でも、こうした参加者同士の温かい繋がりは、特別な予算がなくても、専門的な知識がなくても育むことができます。まずは、今行っている活動の中で、参加者の方々に少しだけ役割をお願いしてみる、皆で話せる時間を作ってみる、といった小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ:小さな一歩が大きな支え合いに繋がります
地域活動における参加者同士の支え合いは、運営を助けるだけでなく、参加者一人ひとりの生きがいやwell-beingに深く関わるものです。特別なプログラムや高価な設備がなくても、今日ご紹介したような日々のちょっとした「仕掛け」や「工夫」を重ねていくことで、自然発生的な温かい交流や助け合いが生まれる可能性が高まります。
地域住民活動団体の代表として、何から始めれば良いか、専門知識がないから不安だと感じていらっしゃるかもしれません。しかし、参加者の方々の「やってみたい」という気持ちや、「誰かの役に立ちたい」という温かい心を引き出すことは、専門家でなくとも、地域のことをよく知っている皆様だからこそできることです。
ぜひ、あなたの活動の場で、参加者同士が自然と支え合える、そんな温かい場づくりを目指していただければ幸いです。最初の一歩は小さくても、それが必ず地域に暮らす人々の心を支える大きな力となるでしょう。