活動の「担い手」を育てる:地域住民が自ら関わる仕組みづくりのヒント
地域活動を支える「担い手」の力:活動を長く続けるために
地域でのメンタルヘルス支援活動や居場所づくりを進める中で、活動が軌道に乗ってくると、「人手が足りない」「いつも同じ人に負担がかかっている」といった悩みが生まれがちです。このような時、「担い手」となってくれる地域住民の方が増えることは、活動を長く、そして楽しく続ける上で非常に大切な要素となります。
ここでは、専門家でなくてもできる範囲で、どのように地域住民の方々を活動の「担い手」として巻き込み、育てていくかについてのヒントをお伝えします。
「担い手」とはどんな人でしょうか?
地域活動における「担い手」とは、必ずしも専門的な知識を持った人や、毎日運営に深く関わる人だけを指すわけではありません。例えば、
- 受付で笑顔で参加者を迎えてくれる方
- お茶やお菓子の準備を手伝ってくれる方
- 会場の片付けを一緒にしてくれる方
- 活動のチラシを近所に配ってくれる方
- 「こうしたらどうかな?」と新しいアイデアを出してくれる方
など、活動を「自分事」として捉え、それぞれの得意なことやできる範囲で関わってくれる、地域住民の方々全員が「担い手」になりうるのです。ボランティアと呼ぶこともありますが、「一緒に活動を作っていく仲間」という意識を持てるような声かけが大切です。
担い手を見つけ、関わりを引き出すヒント
では、どのようにして地域の中に「担い手」となる方を見つけ、活動への関わりを引き出していくことができるでしょうか。
- 既存の参加者の方に声をかけてみる: 活動にいつも来てくださる方の中に、「何か手伝えることはありますか?」と気にかけてくれる方や、いつも楽しそうに参加されている方がいらっしゃるかもしれません。「〇〇さん、もしよかったら、来週のお茶出し、少し手伝っていただけませんか?」のように、具体的な、小さな役割から声をかけてみることが有効です。
- 「お願い」ではなく「一緒にやりませんか?」と伝える: 「人が足りないから手伝ってほしい」というお願いの仕方よりも、「この活動をもっと良くするために、一緒にこんなことをやってみませんか?」という呼びかけの方が、活動への主体的な参加を促しやすくなります。活動の楽しさや意義を共有することを心がけましょう。
- 活動の中で「役割」を提示する: 例えば、イベントの企画会議に「よかったら、こんな意見があるんだけど、一緒に考えてみませんか?」と誘ってみたり、広報誌の記事を一緒に書こうと声をかけてみたり。特別なスキルがなくてもできる役割、その人の興味や関心に合わせた役割を用意することで、関わりのきっかけが生まれます。
担い手を育み、活動への「楽しい」気持ちを育むポイント
せっかく関わってくれた担い手の方に、活動を「楽しい」「役に立てている」と感じてもらい、継続して関わってもらうためには、いくつかの大切なポイントがあります。
- 「できないこと」より「できること」に目を向ける: 専門知識がないことや、忙しくてあまり時間が取れないことを気にする必要はありません。その方が「これならできる」と感じられること、得意なこと、興味があることから始めてもらいましょう。例えば、絵を描くのが好きな方には広報物のイラストをお願いするなど、その方の「強み」を活かす工夫をします。
- 感謝の気持ちを具体的に伝える: 手伝ってもらったことに対して、「〇〇さんが手伝ってくれたおかげで、とても助かりました」「〇〇さんがいてくれると、場が和みますね」など、具体的な言葉で感謝を伝えましょう。活動への貢献が認められていると感じることは、次への意欲につながります。
- 無理なく、負担にならないように配慮する: 地域活動は本業ではない方がほとんどです。それぞれの生活や体調に配慮し、無理のない範囲で関わってもらうことが重要です。「今月は忙しいから、来月は無理せず休んでくださいね」といった声かけも大切です。
- 小さな「ありがとう」を共有する場を作る: 活動の後に、短い時間でも良いので、「今日の活動で良かったこと」「助かったこと」などを気軽に話せる機会があると、お互いの貢献を認め合い、一体感を育むことができます。
- 「専門知識がなくても大丈夫」を伝える: メンタルヘルスに関わる活動だからといって、難しい知識が必要だと思ってしまう方もいます。しかし、地域活動で大切なのは、専門知識よりも「人の話を聞く力」「一緒に笑い合える力」「温かい雰囲気を作る力」であったりします。これらの力は、特別な学びがなくても誰もが持っている可能性のあるものです。「あなたのその優しさが、活動の力になります」といったメッセージを伝えることが有効です。
事例:おしゃべりサロンから生まれた「運営チーム」
ある地域の公民館で週に一度開かれている「おしゃべりサロン」では、当初は立ち上げた数名のボランティアが中心となって運営していました。参加者が増えるにつれて負担が大きくなり、活動の継続が危ぶまれた時期がありました。
そこで、代表の方は、いつも楽しそうに参加している数名の方に「よかったら、次にお茶を準備する時、一緒にやり方を教えてもらえませんか?」と声をかけ始めました。最初は一人、二人と簡単な手伝いから始まりました。
手伝ってくれた方には、その都度「〇〇さんが手伝ってくれたから、今日はスムーズにできましたよ」と感謝を伝えました。やがて、「もしよかったら、来週の準備、お願いしても良いですか?」と具体的な依頼をするようになりました。
さらに、月に一度、サロンの後に「今日のサロンの振り返り会」と称して、参加者も自由に参加できるお茶会を開くようにしました。そこで、「最近こういう参加者さんが増えたけど、どんな話題が良いかな?」「会場のレイアウト、もっと良くできないかな?」といった話題をフランクに話し合う場を設けました。
すると、参加者の中から「それなら、私、こういう話題を用意できるわ」「私は会場の飾り付け、手伝うのが好きよ」といった声が自然と上がるようになったのです。
代表の方は、これらの声を受け止め、「じゃあ、一緒にやってみましょうか」と、それぞれの「できること」を活かせる小さな役割を少しずつお願いしていきました。こうして、特別な会議体を作るのではなく、日常のおしゃべりや振り返りの中から、自然と活動を「支える」そして「一緒に作る」チームが生まれていったのです。
この事例のように、専門的な「育成プログラム」がなくても、日々のコミュニケーションや、小さな関わりの積み重ねの中から、地域活動の「担い手」は育っていく可能性があるのです。
まとめ
地域活動における「担い手」を育てることは、活動の継続性を高め、より多様な視点を運営に取り入れる上で非常に重要です。特別なスキルや知識を求めるのではなく、地域住民一人ひとりの「できること」や「関わりたい気持ち」を大切にし、小さな一歩から応援していく姿勢が鍵となります。
焦らず、一つずつ、地域の中に活動を「自分事」として捉えてくれる仲間を増やしていくことが、活動を豊かにし、長く続けていく力となるでしょう。