地域で安心してメンタルサポート活動を続けるために:トラブルを防ぎ、安全な場を作るヒント
地域活動の安心・安全を守るために
地域でのメンタルヘルス支援活動は、参加される方々にとって心の拠り所となり得ます。一方で、様々な背景を持つ方々が集まる場であるため、予期せぬトラブルが発生したり、参加者や運営者の安全・安心をどのように守るべきかといった不安を感じることもあるかもしれません。
専門的な知識がなくても、地域活動の現場で実践できる安全な場づくりの基本的な考え方や、トラブル発生時の対応について具体的なヒントをご紹介します。活動を長く続けるためにも、安心できる環境を作ることはとても大切です。
参加者も運営者も安心できる場づくりの基本
安全で安心できる場を作ることは、活動の質を高め、参加者の信頼を得る上で欠かせません。いくつかの基本的なポイントがあります。
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活動の目的とルールを明確にする: 何のための活動なのか、どのような人が対象なのか、参加する上での約束事(例: プライバシーを守る、他の人の話を尊重する)を事前に分かりやすく伝えましょう。これにより、参加者はお互いを尊重し、安心して活動に参加できます。ルールは厳格にするのではなく、皆が気持ちよく過ごすための「やさしい約束」として共有すると良いでしょう。
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秘密保持の重要性とその伝え方: 活動中に話された個人的な内容は、その場限りとする原則を共有します。特にセンシティブな内容が話される可能性がある場合は、「ここで話されたことは、この場から持ち出しません」ということを運営者が明確に伝え、参加者にも同意してもらうことが大切です。ただし、法律に関わる場合や、自分自身や他者の安全が危険にさらされる情報(自傷他害の恐れなど)については、例外があることを事前に伝えておくと、より信頼が高まります。
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無理強いしない、強制しない環境: 参加者が「話したくない」「やりたくない」と感じたときに、それを尊重できる雰囲気を作りましょう。参加はあくまで本人の意思によるものであり、発言や行動を強制しないことが、心理的な安全性を保つ上で非常に重要です。
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体調が優れない方への配慮: 活動中に体調が悪そうに見える方や、明らかに普段と様子が違う方がいた場合、無理に参加を続けさせず、静かに休めるスペースを用意したり、必要に応じて帰宅を促したりするなどの配慮が必要です。体調について尋ねる際は、「大丈夫ですか」と声をかけ、本人のペースに合わせることが大切です。
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相談窓口や緊急連絡先の共有: 活動のチラシや案内に、地域の相談窓口(保健所、精神保健福祉センター、地域の相談支援事業所など)や、緊急時の連絡先を記載しておくと、参加者にとって安心材料となります。すぐに役立つとは限りませんが、困ったときに「どこに相談すれば良いか分からない」という状況を防ぐ手助けになります。
よくあるトラブルとその対応
地域活動の場で起こりうるトラブルは様々です。ここではいくつかの例と、専門知識がなくてもできる基本的な対応を考えます。
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参加者間の意見の対立や感情的な衝突: 共通の話題や活動に対して、意見が対立したり、感情的になったりすることがあります。このような時は、まず冷静に状況を観察し、必要に応じて間に立ってそれぞれの意見を傾聴します。どちらか一方の味方をするのではなく、「なるほど、そう感じていらっしゃるのですね」「別の見方もあるのですね」と、それぞれの気持ちや考えを受け止める姿勢を示すことが大切です。感情が高ぶっている場合は、少し休憩を挟むことなども有効です。
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特定の参加者からの過度な要求や依存: 活動の運営者や他の参加者に、個人的な相談を長時間続けたり、活動の範囲を超える支援を求めたりするケースがあります。このような時は、活動の目的やできること・できないことを改めて丁寧に伝える必要があります。「私たちは〇〇を行うための集まりです」「専門的なご相談については、地域の△△という窓口が詳しいですよ」など、代替となる情報を提供しつつ、境界線を守る姿勢を示すことが大切です。一人で抱え込まず、他の運営メンバーと対応を話し合うことも重要です。
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活動場所での問題: 借りている場所で騒ぎすぎたり、備品を破損したりといった問題が起こる可能性もあります。事前に使用上の注意を参加者に伝えると共に、活動中は常に目を配り、問題があればすぐに注意を促し、解決に努めます。万が一、備品を破損してしまった場合などに備え、活動保険への加入も検討に値します。
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体調急変への対応: 参加者が活動中に急に体調を崩したり、精神的に不安定になったりすることがあります。まずは落ち着いて声をかけ、本人の状態を確認します。必要に応じて、事前に共有しておいた緊急連絡先(ご家族など)に連絡したり、救急車を呼んだりといった対応が必要になります。運営メンバーで簡単な応急手当の方法や、緊急時の対応マニュアルを確認しておくと安心です。
対応の基本姿勢: どんなトラブルであれ、対応する際は以下の点を心がけましょう。 - 冷静に対応する: 感情的にならず、落ち着いた態度で接します。 - 傾聴と共感: 相手の話をしっかりと聞き、その気持ちに寄り添う姿勢を示します。ただし、専門家のように踏み込んだカウンセリングを行う必要はありません。 - 否定しない: 相手の意見や感情を頭ごなしに否定せず、まずは受け止めます。 - 境界線を守る: 活動の範囲や自分たちにできること・できないことを明確にし、無理に対応しようとしないことが大切です。 - 一人で抱え込まない: 難しい判断や対応が必要な場合は、他の運営メンバーや、必要であれば地域の専門家(行政の担当者、社会福祉協議会、相談支援事業所など)に必ず相談しましょう。
トラブルを未然に防ぐための備え
トラブルが起きてからの対応も大切ですが、できる限り未然に防ぐための準備も重要です。
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事前の情報共有: 活動の開始前に、運営メンバー間で参加者の情報(把握している範囲で)や、懸念される点について共有する時間を持ちましょう。また、過去に起こったトラブル事例とその対応策を振り返ることも有効です。
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外部との連携体制: 地域の行政(福祉課や保健所など)、社会福祉協議会、相談支援事業所、医療機関など、地域の専門機関との連携は、トラブル発生時だけでなく、予防の観点からも非常に重要です。日頃から情報交換を行い、困った時に相談できる関係性を作っておくと安心です。「この件はどこに相談すれば良いのだろう」と迷った時に、すぐに頼れる先があることが大きな助けになります。
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運営メンバー自身のケア: トラブル対応は運営メンバーにとって大きな負担となることがあります。メンバー同士で支え合い、必要であれば外部のスーパービジョン(専門家からの助言)を受けたり、自分たちの悩みを行政担当者などに相談したりすることも、活動を長く続けるためには必要です。
まとめ
地域でのメンタルサポート活動において、トラブル対応や安全確保は避けて通れない課題かもしれません。しかし、これらの課題に真摯に向き合い、一つずつ丁寧に対策を講じることで、参加者だけでなく運営者自身も安心して活動に取り組むことができます。
専門的な知識がなくても、基本的な心構えと、地域に存在する様々な資源(他の団体、行政、専門機関など)との連携を活かすことで、安全で温かい居場所を作っていくことは十分に可能です。一人で抱え込まず、困ったときは周りの人に相談しながら、より良い活動を目指していきましょう。